~「拾い漏れ」が工事費全体に影響する理由~
あるマンションの調査診断を担当した時のお話です。
そのマンションでは、建物の劣化状況を確認する調査診断と並行して、大規模修繕工事に必要な数量を算出するための現地確認も行われていました。
調査は無事に終了しました。
ところが、その数か月後、工事費の積算で大きな間違いが見つかったと聞きました。
二棟が連続して建つマンションで、ある外壁面が一面丸ごと、積算数量から抜け落ちていたのです。

「外壁を拾う」とは?
積算業務では、図面や現地調査の資料をもとに、工事に必要となる面積、長さ、箇所数などを算出します。
この数量を拾い出す作業を、実務では「拾い」と呼びます。
外壁一面を拾い忘れるということは、単に外壁の面積が少し不足するという話ではありません。
その外壁面で必要となる、さまざまな工事項目の数量が連鎖して抜け落ちる可能性があります。
例えば、
・外壁に沿って設置する足場
・タイルの打診調査や補修
・外壁の洗浄や塗装
・窓や建具まわりのシーリング
・ひび割れや欠損部分の補修
などです。
工事項目は、それぞれ別の見積書の行に記載されます。
しかし、数量の根拠となる外壁面そのものが拾われていなければ、複数の項目がまとめて過少に算出されてしまいます。
金額が低くても、「安い」とは限らない
数量が抜け落ちれば、その分だけ積算上の工事費は実際より低くなります。一見すると、工事費を抑えられたように見えるかもしれません。
しかし、実際の建物から外壁がなくなるわけではありません。工事を行う以上、どこかの段階で数量が不足していることが分かります。
もし工事開始後に判明すれば、追加費用や工期への影響が生じるだけでなく、「その費用を誰が負担するのか」という問題にも発展しかねません。実際の扱いは、発注方式、見積条件、契約内容などによって異なります。
いずれにしても、積算数量の大きな間違いは、管理組合、設計・コンサルタント、施工会社の間で深刻な協議を招く原因になります。この事例では、幸いにも管理組合へ提出する前のチェック段階で間違いが発見され、修正することができました。
なぜ、大きな拾い漏れが起きるのか
「外壁一面を忘れるなんて、本当にあるの?」
そう思われるかもしれません。
しかし、規模の大きなマンションでは、棟ごと、方位ごと、工事項目ごとに大量の数量を扱います。複数棟が連続していたり、建物の形が複雑だったりすると、図面の確認範囲を取り違えることもあります。また、一つの外壁面を拾い忘れたまま作業が進むと、その数値をもとに計算する別の工事項目にも漏れが広がります。
だからこそ、積算では計算結果だけを見るのではなく、
・すべての棟と方位を確認したか
・立面図と平面図の範囲が一致しているか
・各工事項目に同じ面の数量が反映されているか
・建物の規模に対して合計数量が極端に少なくないか
・別の担当者によるチェックを行ったか
といった確認が欠かせません。
管理組合が確認したいこと
管理組合が、すべての積算数量を自分たちで再計算するのは現実的ではありません。
ただし、提出された見積書について、次の点を確認することはできます。
・数量の算出根拠が示されているか
・各社の見積数量に大きな差がないか
・「一式」とされ、内容が分からない項目が多すぎないか
・工事範囲や除外範囲が明確になっているか
・提出前にどのようなチェックを行ったか
特に、ほかの見積もりと比べて極端に安い金額が出てきた場合は、単価が安いだけでなく、必要な数量や工事項目が抜けていないかを確認する必要があります。
建築積算士から一言
私は建築積算士として、新築工事だけでなく、大規模修繕工事の積算業務にも携わってきました。積算は、完成した建物のように目に見える仕事ではありません。しかし、そこで算出された数量が工事費の基礎となり、管理組合の予算や施工会社の見積金額に大きく影響します。
一つの拾い漏れが、複数の工事項目へ連鎖することもあります。
そのため積算では、単純な入力ミスや計算ミスだけでなく、「建物のどこかが丸ごと抜けていないか」という視点で、何重にも確認することが重要です。安く見える見積書が、必ずしも適正な見積書とは限りません。大切なのは、金額だけで判断せず、その金額を構成する数量と工事範囲に目を向けることです。
このシリーズでは、建築積算士としての実務経験をもとに、見積書や工事費の仕組みを専門家の視点から分かりやすく解説し、管理組合の皆様が納得して判断できる知識をお届けしていきます。
※一部の記事は、個人やマンションが特定されないよう内容を再構成・匿名化しています。<<



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