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#5 大規模修繕工事の「戸当たり金額」とは?

100万円を超えたら高い、とは限りません

大規模修繕工事の金額を比較するとき、「戸当たり」という言葉が使われることがあります。

例えば、100戸のマンションで、大規模修繕工事の金額が1億円だった場合、

1億円 ÷ 100戸 = 100万円/戸

となります。

この100万円が、そのマンションの「戸当たり工事金額」です。

ただし、これは各住戸が実際に100万円ずつ負担するという意味ではありません。

戸当たり工事金額は、工事総額を住戸数で単純に割った、比較のための概算指標です。

実際の負担額は、管理規約で定められた修繕積立金の負担割合、一時金の徴収方法、これまでの積立状況などによって異なります。

「戸当たり100万円」が基準だった?

以前は、大規模修繕工事の目安として「戸当たり100万円」という数字を重視する管理組合が少なくありませんでした。

当時は、戸当たり100万円程度が一般的であるという情報も広く知られており、

「100万円より安ければ適正」
「100万円を超えたら高い」

と判断する理事会もありました。

その情報を参考にしていた管理組合が、間違っていたわけではありません。

戸当たり金額は、工事費のおおよその規模を把握したり、ほかのマンションと比較したりするための、分かりやすい指標だからです。

しかし、戸当たり金額だけで、工事費が高いか安いかを判断することはできません。

公的な調査では、現在いくらなのか

2026年8月時点で確認できる国土交通省の最新の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」は、令和3年度に実施されたものです。

この調査では、戸当たり工事金額は「100万~125万円」の範囲が最も多く、次いで「75万~100万円」「125万~150万円」となっています。(タワーマンションや複数棟のマンションは下記には該当しません)

工事回数別の中央値は、次のとおりです。

大規模修繕の回数戸当たり工事金額の中央値
1回目約110.2万円/戸
2回目約106.1万円/戸
3回目以上約97.0万円/戸

ただし、この調査の工事金額には、現場事務所、仮設トイレ、光熱費などの共通仮設費が含まれていません。

また、調査時点以降の資材価格や人件費の上昇もあります。そのため、「現在の大規模修繕工事は100万~125万円でできる」と判断するための数字ではありません。

あくまでも、過去の工事実績を集計した参考資料として見る必要があります。

参考:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

同じ100戸でも、工事金額は同じにならない

次の三つのマンションは、すべて100戸だとします。

  • A:6階建て・1棟・セットバックなし
  • B:10階建て・2棟・50戸+50戸
  • C:15階建て・3棟・30戸+45戸+25戸・セットバックあり

住戸数だけを見れば、すべて同じ100戸です。

戸当たり100万円を当てはめれば、どのマンションも工事費は1億円になります。

しかし、実際には同じ金額になるとは限りません。

住戸の広さや工事仕様などを同程度と仮定した場合でも、棟数が増えれば、建物の外周や外壁の面積が増える傾向があります。

外壁面積が増えれば、塗装、下地補修、シーリングなどの工事数量が増え、それに伴って足場の面積も増えます。

また、セットバックのある建物では、屋根や防水部分が複数の階に分かれ、足場の形状も複雑になる場合があります。

同じ100戸でも、建物の形状によって工事数量と施工方法が変わるため、戸当たり工事金額も変わるのです。

なお、A・B・Cのどれが必ず高くなると、戸数、棟数、階数だけで断定することはできません。

実際には、建物の寸法、劣化状況、工事範囲、使用材料、施工条件などを確認して判断する必要があります。

工事金額に影響する主な条件

大規模修繕工事の金額は、主に「工事数量×単価」の積み重ねによって算出されます。

国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、推定修繕工事費は、工事項目ごとに算出した数量へ設定単価を乗じて算定する考え方が示されています。

工事金額へ影響する主な条件には、次のようなものがあります。

建物の外壁面積

外壁面積が大きければ、塗装、タイル補修、ひび割れ補修、シーリングなどの数量が増えます。

同じ戸数でも、建物が複数棟に分かれている場合や、凹凸の多い形状の場合は、外壁面積が大きくなることがあります。

足場の面積と形状

足場は、大規模修繕工事の金額に大きく影響します。

建物が高い、複数棟に分かれている、セットバックや凹凸が多いといった場合には、足場の数量や組み方が変わります。

通常の足場を設置できない場所では、ゴンドラなど別の仮設方法が必要になることもあります。

防水面積と防水箇所

屋上、バルコニー、廊下、階段、庇など、防水工事の対象となる面積や場所もマンションごとに異なります。

セットバックのある建物では、屋上に相当する部分が複数の階に生じることもあります。

建物の劣化状況

同じ面積でも、ひび割れ、タイルの浮き、鉄筋の露出などが多ければ、補修費用は高くなります。

設計図だけでは確定できない部分もあるため、事前の調査診断が重要です。

敷地の広さ

敷地が狭いマンションでは、現場事務所、資材置場、廃材置場などを十分に確保できないことがあります。

一度に施工できる範囲が限られ、工区を細かく分ける必要が生じれば、工期や運搬回数が増え、費用に影響します。

周辺道路の幅

大型車が進入できない場所では、小型車へ積み替えて、資材や廃材を何度も運搬しなければならない場合があります。

道路使用や交通誘導員などの費用が必要になることもあります。

工事範囲と仕様

外壁や防水だけを修繕する工事と、玄関扉、サッシ、給排水設備、エレベーターなども同時に改修する工事では、金額が大きく異なります。

比較するときは、「何が工事金額に含まれているか」をそろえなければなりません。

戸当たり金額は役に立たないのか

戸当たり金額が、まったく役に立たないわけではありません。

過去の工事、長期修繕計画、類似マンションなどと比較し、金額に大きな差がないかを確認するための入口としては有効です。

ただし、比較する場合には、少なくとも次の条件を確認する必要があります。

  • 工事範囲は同じか
  • 共通仮設費や諸経費を含んでいるか
  • 消費税を含んでいるか
  • 建物の規模や形状は近いか
  • 築年数と修繕回数は近いか
  • 劣化状況は近いか
  • 比較した工事の時期と地域は近いか

これらの条件が異なる金額を、戸当たりだけで比較しても、適正な判断はできません。

第三者アドバイザーから一言

「戸当たり100万円」という数字は分かりやすいため、管理組合にとって魅力的な判断基準に見えます。

しかし、大規模修繕工事の積算では、本来、外壁、防水、シーリング、足場などの数量を算出し、それぞれの単価を掛けて工事費を積み上げていきます。

戸当たり金額から、必要な工事数量を逆算するわけではありません。

戸当たり金額は、見積書に異常がないか確認するための「入口」にはなります。

しかし、その金額だけで工事費の妥当性を決める「答え」にはなりません。

工事金額を判断するときは、戸当たりの数字だけではなく、

「何を、どれだけ、どのような条件で工事するのか」

を確認することが大切です。


施工管理、大規模修繕コンサルティング、建築積算の経験をもとに、大規模修繕工事の見積書や工事費について、管理組合の皆様に分かりやすく解説しています。

※掲載した金額は、公表資料に基づく参考値です。個別のマンションの適正工事費を示すものではありません。



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English Summary

The “cost per unit” is commonly used as a simple benchmark for condominium major repair projects.

For example, if a 100-unit condominium has a total construction cost of 100 million yen, the cost per unit is calculated as one million yen.

However, this does not mean that every owner actually pays the same amount. It is only a simplified figure obtained by dividing the total project cost by the number of units.

According to the latest available survey published by Japan’s Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, the most common range was 1.0 to 1.25 million yen per unit. However, the survey excluded certain common temporary construction costs, and prices vary according to building conditions and the scope of work.

Even condominiums with the same number of units can have very different construction costs. The number of buildings, exterior wall area, scaffolding requirements, waterproofing area, deterioration, site conditions, road access, and repair specifications all affect the final price.

The cost per unit can be useful as an initial comparison. However, it cannot determine whether a quotation is appropriate.

A proper assessment requires reviewing what work will be performed, the quantities involved, the unit prices, and the conditions under which the work will be carried out.


マンション大規模修繕アドバイザー
建築積算士・管理業務主任者・1級建築施工管理技士
大規模修繕コンサルティング業務/現場代理人経験者

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